はみだしつば

堂本剛さんに関する一つの見解

2014年に「ボクの背中には羽根がある」を考える

2月23日の新堂本兄弟にてテゴマス×KinKi Kidsボクの背中には羽根がある」が披露された。

民族楽器の音色が印象的なフォルクローレテイストのこの曲は、わかりやすいロック・ポップ曲が流行していた2001年発売当時にはあまりにも素朴で、古めかしくて、とても斬新だった。「ボクの背中には羽根がある」という思わず二度聞きしたくなるインパクトの強いタイトルも計算されたかのようにその曲調の中にすっぽりとおさまり、一作品としての色彩を強めたからか、ファン以外の一般リスナーをも巻きこむビッグセールスを記録した。そして13年の時を経た今も、ひとたび曲が流れれば、私たちの感情を揺さぶり、想像力を刺激してくる。名曲とはこういうものなのだろう。

テゴマスの描く「ボクの背中には羽根がある」は、あたたかい幸福に満ち溢れた世界だった。「君」とともに生きるボクのこれからの人生を思うと、空も飛べてしまうくらいに心が躍り、高揚感に包まれ、確かな光明を見出せてしまうのだ。未来への疑いようのない確信。彼らによる目新しい解釈に目から鱗が落ちた。

確かに、1コーラス目の歌詞を見る限り、その解釈は素直で正しい。どこまでもハッピーで構わないのだ。にもかかわらず、これまでそのシンプルな解釈がされてこなかった理由は何なのか。KinKi Kidsが纏う哀感によるのはもちろんのこと、個人的には、哀調のメロディと一体となり過ぎたために不可思議なまま置きざりにされた2コーラス目の歌詞の闇によるところが大きい。聴いていて、どうしても引っかかるのだ。ここであらためて、歌詞の解読などという下衆なことをしてみようと思う。

 

ボクの背中には羽根がある - KinKi Kids - 歌詞 : 歌ネット

 

(ここからは拡大解釈です。妄想劇場へようこそ)

この曲のポイントは、ボクと人生をともにする「君」が誰なのか、という点だ。歌詞の全体を通して読んだ時に、二人の「君」像が浮かびあがった。

 

1コーラス目に出てくる「君」は、ボクの「(亡くなった)妻」と断定したい。

Aメロ・Bメロでは、君(=亡き妻)との思い出の回想にふける自分と相手の不在に気づく自分とが交錯し、虚しさややりきれなさが滲んでいる。サビに入ると、とうとう堪えきれない哀しみが爆発する。「君」の幻影を抱きながら天へと向かい、全能の自分と永遠の愛を訴えるのだ。この世にいない君と(心をともにして)生きることが幸福なのだと。そう思いこみたいボクの、強がりと諦めの入り混じった、すがるような、言い聞かせるような、ひどく哀しい現実逃避の歌。言い方は悪いが、ボクは少し壊れている。

そして2コーラス目。重要ワードが多いため詳しくみていく。

 

好きだなんて声に出したら
この空気がひび割れるかも
草の匂い 背伸びして嗅ぐ
そんなとこもうりふたつだね

 

一体、誰と誰がうりふたつというのだろう。うりふたつ、というのは使い方の限定される言葉であり、双子や親子くらいにしか適用されにくいが、この曲の場合は後者とみるのが自然だ。つまり2コーラス目は、亡くなった妻の忘れ形見ともいえる「娘」とボクとのストーリーだ。ボクは未練がましい複雑な気持ちを抱えながら、娘の姿に亡き妻の姿を静かに重ねている。

 

明るい笑い声
みんな振り向いて見てる
ふと瞳があった瞬間
何もかもが自由だね

 

明るい笑い声を振りまいているのは「娘」で、ボクと瞳が合うのも「娘」だ。この「ふと瞳があった瞬間」に、この曲は最大の山場を迎える。娘の瞳の中に何か(おそらく妻の瞳や妻の呼びかけ)を見つけたボクは、にわかに心境を変化させるのだ。それは妻への思いから自由になること、亡き妻への執着を手放すことを意味する。そしてサビへ。

 

ずっと君と生きてくんだね
胸に頬寄せて確かめる 

 

この「君」は引き続き「娘」を指す。ボクは娘の胸に頬を寄せて何かを確かめる。それは「心臓の鼓動」。娘がまさに今生きていることの証しだ。娘の実存を確認したボクは夢から醒め、ようやく地に足をつける。もう嘘でも何でもなく、娘と二人で歩む人生を現実的にとらえはじめるのだ。妻の「優しさ」をきっかけとして。

 

ラストに近づくにつれ、妻から娘へと、死から生へと気持ちの移行が進み、決意が現実味を増していく構造になっている。1コーラス目のサビとラストのサビの歌詞は全く同じだが、その歌詞の中の「君」が別の人を指すという鮮やかな展開が用意されている。また、2コーラス終了後すぐのサビ「きっと 君と生きてくんだね」のくだりには特別な注意を払わねばならない。一度だけ登場する「きっと」という単語に「きっと、君(娘)の中に君(妻)が生きているんだね」という確信めいた願望がこめられており、これは妻への優しい語りかけでもあるのだ。

 

相当乱暴な意味づけではあるが、このように「ボクの背中には羽根がある」には一人の男性による、生死をめぐる心の葛藤と成長を描くドラマを見出すことができる。これ以外にもさまざまな解釈を可能とする奥行きのある歌詞だ。当時KinKi Kids は20代前半。テーマは重く深いが、「硝子の少年」同様に年齢を重ねても歌えるよう長期的な展望のもとに製作されている。

 

あらためて新堂本兄弟を観なおした。テゴマスの歌唱後、ガラッと照明が切り替わり、暗く蒼い光の中で堂本剛がアカペラで歌い出す。

 

きっと君と生きてくんだね
胸に頬寄せて確かめる

 

無表情とは違う。心の目で、何かを確かに見ている。浮かんだシャボン玉を消さないよう、繊細で、どこまでもやわらかな歌声が印象的だった。