はみだしつば

堂本剛さんに関する一つの見解

選曲の妙

遅まきながら8月2日に放映されたTBS『音楽の日』(第四回)を見た。

第一回が東日本大震災から四ヶ月後だったこともあり、コンセプトが「一つになって歌の力でニッポンを元気づける」だった(らしい)が、今回もそのコンセプトをファジーに踏襲しているのだろう。二回目の出演となるKinKi Kidsは「フラワー」「Hey!みんな元気かい?」の2曲を披露した。

「フラワー」は誰が聴いても分かりやすいタイプの応援ソングだ。

僕らは愛の花咲かそうよ 苦しいことばっかりじゃないから

こんなにがんばってる君がいる かなわない夢はないんだ

毎日辛いことも多いけれど、君も僕も頑張っている。そんな僕たちを青空や太陽はいつも見ていてくれる。だから小さなことでくよくよしなくていい。前向きに生きていればいつかいいことがある。夢がかなったときは、みんなで喜びをわかちあおう。……といったように、人々のポジティブな意識を刺激する健全な王道ポップスだ。曲調も明るく朗らかで、この曲を聴いて悩みがふっきれた、元気づけられたという人も多いのかもしれない。

対する「Hey!みんな元気かい?」はどうだろうか。冒頭の歌詞を見てみよう。

悲しみの涙で育った大きな木を どこまでものぼってゆけば

いつか必ず月に着くだろう そこで音楽を聴いて体を動かす

暗闇の中、涙を糧にぐんぐんと天空に伸びていった木をひたすら登ると、ほのかに光る「月」にたどり着く。そこで一人、音楽を聴いて踊る。……暗い、暗いよ倉持氏。いつも太陽が微笑んでくれて皆で笑い合える「フラワー」の世界とは大違いなのであった。

この歌には他にも「心を揺さぶることはほとんどない」けれども「楽しいと思いこませ」ながら日々を過ごしている人や、「自分の心もそろそろ疑い始めている」人、「ながら族」な人が出てくる。彼らが人生を諦めているのか、シニカルな態度を見せているのか、苦しすぎて平静を装わなくてはならないのか、そのあたりはよくわからない。ただ、それぞれが「雨」に降られ、「夜」に包みこまれる。

倉持氏が職業作家というわけではない以上、この歌詞には氏の人生観のようなものがぼんやりと表れている可能性が高い。TVブロス誌での連載を持っていた頃しか馴染みはないのだが、倉持氏は圧倒的に「ゆるく」「気楽なノリ」で、そして「プラス思考」だったように記憶している(というか、本人の資質は不明だが、そういう考え方を推奨していた)。人間はそもそもしょうもない。弱くて情けない。だから無駄にくよくよするな、考え過ぎるな、と。

これを踏まえると、(作家からの)登場人物への視線がほんのりと温かみを帯びていることがわかる。あまりにも深い悲しみに暮れていたり、一生懸命過ぎて大切なことに気がつかなかったり、これは楽しいのだと自分を納得させようとしている人を、「それはそれで人間らしい人・行為」としてやさしく受け入れている。そんなんじゃダメだ、もっと明るくなければ、などと人を追いたてるようなことは決してしない。サビの歌詞が「元気をだそう」といった、ある種の窮屈さを感じさせる文句なのではなく、「元気かい?」という一定の心的距離を保った(心の中での)問いかけであるのは、この歌においては必然なのだ。そのさりげなさは、他者には見えない深い闇の中を模索している人間にとって、もっと言うと「フラワー」の眩しい世界に苦しめられ、夜に癒しと救いを求めているような人間にとって、ささやかな光明であり、安らぎである。

応援ソングとして捉えた場合に、陽と陰のような関係にある「フラワー」と「Hey!みんな元気かい?」。この極性をおそらく理解しつつ、同じ番組内で連続してパフォーマンスできるKinKi Kidsという歌い手の存在を、この時代に忘れてはならない、と考えた一夜だった。