はみだしつば

堂本剛さんに関する一つの見解

【レビュー】M album

KinKi Kids 約一年ぶりの新作『M album』は前作に引き続き二枚組。アイドルポップスとしての会心作に仕上がった。

主に新曲で構成されたDISC1「Moments –瞬間-」は、作詞作曲アレンジャー陣から「わかりやすい」ビッグネームが消え、新進若手ミュージシャンの台頭が目立った。歌詞から浮かび上がるのは30代と思しき等身大の青年像。青春期を過ぎた「僕」と「君」の素朴でリアルな関係は、虚像としてのアイドルKinKi Kids を身近な存在へと引き寄せる(ただしサウンドにはさりげなくキラキラとポップな仕掛けが織り込まれ、アイドルソングとしての体を崩さない)。

トレンドを意識しつつも耳馴染みがよい楽曲群の中で、作家性が強く打ち出されたM5「SPEAK LOW」とM9「Glorious Days~ただ道を探してる」が異彩を放つ。この2曲の歌唱は他のグループでは代替不可能だろう。コンペ形式で良曲を揃えるのも一つの方法だが、今後は堂島孝平氏やU-Key zone氏ら同世代の実力派ミュージシャンとじっくり組み、共同プロデュースというかたちで音楽性を模索するのも面白いかもしれない。

対するDISC2「Memories –記憶- 」は、リアレンジによるセルフカバー。初期の曲やヒット曲等、コンサートでも常連のナンバーが並ぶ。大物アレンジャー陣が手がける名曲群はいずれも重厚で潤沢。80年代のA級アイドルが気鋭のクリエイターに支えられていたさまを彷彿とさせる。DISC2のKinKi Kids は、手の届く身近な存在ではなく、虚像としてのアイドルの立ち位置にいると言えよう。

過去の名曲の「再生」としてのリアレンジが多いなか、「再解釈」としての働きが強かったのがM6「愛のかたまり」(次点でM5「もう君以外愛せない」)。冬の凍てつく空気と愛の深さがせめぎ合うような奥行きのあるアレンジが曲中の登場人物のイメージを一新させ、原曲に時代や年齢を超える普遍性を備え付けた。

Memories&Moments。この二つのコンセプトの両立は、長期にわたり第一線で活躍している者にのみ許される。さらに重要なのが、歌い手としての表現力の向上。それらを難なくクリアし、風格すら漂わせる彼らに、今後どのような音楽が待ち受けるのか。アイドルとしての存在のあり方と合わせて注目したい。

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それにしても、歌が上手い。また一つ、階段をのぼったようだ。

今さらながら、自作の詩と曲がいい。歌詞カードを眺めてはじめてわかる言葉の濃度と密度。アイドルと呼ばれるジャンル出身で、記念碑としてではなく、(言葉は悪いが)商品となりえるレベルの詩を継続して世に送り出せているのは斉藤由貴さん以来なのでは。曲とのフィット具合がこれまた尋常ではなく、何年先でもいいから、合作をただただ待ってみようという気にさせられる。