はみだしつば

堂本剛さんに関する一つの見解

【レビュー】shamanippon-ロイノチノイ-

堂本剛のアルバム『shamanippom ロイノチノイ』は、紛れもなく前作『shamanippon ラカチノトヒ』の続編だ。『ラカチノトヒ』で誕生した「くに」に植物が育ち、仲間が増え、グルーヴする楽しみが生まれた。まるで靄に包まれているかのようにおぼろげで幻のようだった「くに」の概念が今作では確かな輪郭を帯び、力強いコンセプトとメッセージが目の前に突き付けられた。 「縁-groovin'」の歌詞にあるように、どうやら堂本剛は本当に「ナニモカモ」「ダレモカレモ」を未来へ連れていくつもりらしい。

■初回盤A・初回盤Bについての所感

序盤からインストといっても過言ではない通好みのファンクチューンとパンチのきいたディスコサウンドに次々と遭遇し、思わず体が動いてしまう。強気なのにどこか肩の力が抜けた音にまんまとのせられ、このライブ感はどこまで続くのかとまだ見ぬ世界に思いを馳せているところに意表をつくようなレゲエ(05.イラミイナカハ)、ムード音楽さながらの8ビートのミディアムテンポナンバーにぶち当たる(06.イノチトボクラ、07.美しき日)。

このファンク→歌謡曲(と敢えて言ってしまおう)への流れが、このアルバム最大のポイントだ。ハイテンションの世界から穏やかな空気の支配する異空間へ。ストリングスの音色が静かに重なり、どこかで聴いたことのあるような、懐かしいメロディーがノスタルジックな気分を誘う。奇をてらったフレーズが使用されないあっさりとした印象のこれらの曲は、ある種の記号としての役割を果たす。日本的な旋律に聴き慣れた言葉が重なることがいかに美しいかを、ここで再発見させられるのだ。時代遅れで古くさいと敬遠されがちな歌謡曲が、ちょっとしたエッセンスを加えるだけで、同一アルバム内でファンクと十分に同居しうるのだと強く証明する。そんなこと、私たちは普段気づきもしないし、あえて試そうともしなかった。

これが彼流の感謝の表し方なのだろう。幼少の頃に歌ったであろう童謡や校歌、アイドル活動で彼の体を通り抜けてきた歌謡曲、さらにはそれらを生み育んだ奈良、日本への感謝の気持ち。彼はこれまで歩んできた過去を、アイドル人生を、決して切り捨てはしない。音楽活動をはじめる前から存在していたファンも、音楽を聴いてついてくれるようになったファンも、おそらくこれから増えていくコアな音楽リスナーも、みんなひっくるめて、かつ個別への配慮を忘れることなく、未来へかっさらっていこうとしている。

彼の意思の集大成とも呼べる曲が「08.shamadokafunk - 謝 円 音 頭」だろう。哀愁の旋律とファンクビートを融合させて完成した、これぞジャパニーズエレクトリックファンク。演者もオーディエンスも国籍も性別も関係なく、あらゆる属性を抜きに、あるがままの姿で同じフロアで歌い踊る理想郷。彼はどこまでも音楽とNIPPONとファンを思い、ひたすら感謝の気持ちを捧げながら、一人ひとりの「みんな」と未来をともに生きる方法を音楽を通して提示してくれる。

全体を通して聴くことで、そのコンセプトをより鮮明に感じることができるアルバムだ。しかも一曲一曲の完成度が高い。即興的な曲づくりのあり方はバンドメンバーとの<生きた><今ここにしかない>臨場感あふれるグルーヴを生みだす。誰かの音が突出することはない。全員がshamanipponに賛同し、身をゆだね、ナチュラルに演奏している。濃いメンバーであるはずなのに匿名性すら帯びてきている。これはshamanipponがプロジェクトとして優秀であることを示す。shamanipponが人格をもち、ひとりでに動き出したのだ。メンバーを固定できないという制約がshamanipponの音を正しく選別させ、より純化させるという離れ業をやってのけた。

shamanipponというコンセプトの実現度とグルーヴは、凄まじいレベルに達している。堂本剛にとっても参加ミュージシャンにとっても、ライフワークと成り得る素晴らしいプロジェクトだ。しかしその陰で、個人的に気がかりな点がある。前作『ラカチノトヒ』初回盤で発表された【Inst CD】が今回はない。彼のパーソナルな音楽的志向や胸の内が垣間見える作品が、初回盤A収録の「09.ロイノチノイ」一曲しかないのだ。闇と狂気と純真さが複雑に入り組み、宇宙のズレを晒す堂本剛の独特な音。その音の進化・変化を楽しみにしている人間がいることも、彼には知っておいてもらいたい。ちなみにこの「09.ロイノチノイ」はミラーボールのごとくゆっくりと回転しながら一つとして同じ色のない命の模様を映写する名曲だ。

■通常版についての所感

初回盤に比べ、shamanipponのコンセプトが見えにくい。おそらくその理由は「06.ヒ ト ツ」の存在にある。実際のところ、この曲を抜いて曲順を構成したほうがクールでスマートでかっこいい。しかし彼には、メッセージ性の高いこの曲をどうしても入れたい理由があったのだろう。かっこよさを投げ打ってでも。それが堂本剛という人間である。

※あくまでも初回盤との比較の話であり、「06.ヒ ト ツ」単体、アルバム全体ともにあきれるほどにかっこいいことを前提にしています