はみだしつば

堂本剛さんに関する一つの見解

ひとつの音楽番組の終焉

前番組からカウントすると18年間続いた番組が終わる。

1996年にスタートした前番組は、よく見ていた記憶がある。吉田たくろうというテレビではめったにお目にかかれない大物ミュージシャンが、若い二人組アイドルをメインに据える(軟派な?)音楽番組に出演することは世間では衝撃だった(はず)。たくろう氏が若者を相手に戸惑い、次第に打ち解け、音楽を伝授する姿は新鮮で、楽器を触ったことのない人間が曲を作り、バンドを組んで成長していくさまを見るのが楽しかった。バンドメンバーも重鎮から個性派までバラエティに富んだ面子が揃い、番組全体の高級感を底上げしていた。番組の中心には「たくろう氏」「二人組」そして「音楽」があった。

2001年にスタートした現番組では、たくろう氏が姿を消し、二人組の冠番組となった。ゲストをむかえてのトークとセッションという構成は引き継がれ、音楽番組らしく、外部会場でライブ等もおこなわれた(2005年、2006年、2009年)。と書きつつ、実はよく知らない。いつのまにか番組を視聴する習慣はなくなっていた。

忙しくなり見る時間がなくなったこともあるが、制作テレビ局独特の、軽く明るいノリについていけなくなったことが大きい。たとえばゲストの恋愛話には興味がわかなかった。それに巻き込まれる二人組を気の毒に感じてしまった。彼らは名目上は正統派アイドルでありみんなのアイドルとされている。恋愛話をぶっちゃけてはいけないのに恋愛話を振られる不条理。そもそも人はそんなに恋愛に興味があるのか、せっかくミュージシャンが来ているのだから音楽の話をしてくれ、などの疑問や違和感が入り混じって見なくなった(その後、244 ENDLI-xの衝撃を機に、ぼちぼち見始めるようになる)。話が逸れたが、要は「二人組」も「音楽」も前面に出てこないことに寂しさを感じていた。「たくろう氏」の不在を埋める他の要素が見つからないことも残念だった。

番組Pのインタビュー記事(2007年?)を読んだ。彼のこだわりはハウスバンドによる『生演奏』だ。その源流は『夜のヒットスタジオ』にある。彼は譜面を起こしたりリハーサルに時間がかかったり、何かとトラブルが多い「生演奏」を主体とした番組作りを「前近代的」としている。下準備が必要で、手間がかかる。もちろん制作費もかさむ。だから生演奏を含む番組は「あえて間違ったことをやっている」のだと言う。また、「フジテレビが一番作らせてくれない」のもライブ番組だと言う。

先日終了した『僕らの音楽』も、生演奏を主体とする音楽番組だった。「笑わない音楽番組」を標榜し、10年間続いた。インタビュー内で氏は、「(『僕らの音楽』は)スポンサーが評価してくれるおかげで数字が悪くてもやり続けることができている」と述べている。調べると、番組開始当初から一社提供が続いていたが、2013年春からは複数社提供になっていた。そのころから急速に状況が悪化したのかもしれない。製薬会社との提供関係が切れそうにない『ミュージックフェア』が編成のゴタゴタの渦中にあっても平然と存続が決まっているのとは対照的だ。

氏の話は『HEY!HEY!HEY!』にも及ぶ。最初は音楽の話をしようとトライしたが、真面目な話になると司会のダウンタウンや客のテンションが一気に下がる。そのとき「この番組では音楽の話をしてはいけない」と学習した。そうして視聴率が上昇したので『TK MUSIC CLAMP』をご褒美にもらった、と。これだけ聞くと音楽の扱われ方の軽さにショックを覚えるが、『TK MUSIC CLAMP』のコンセプトが「音楽の話しかしない音楽番組」であり、当初は『サウンドストリート』をテレビでもやりたかったのだというのだから、氏が意外と(失礼!)硬派で音楽に貪欲であることがわかる。

前述では、冠番組の「音楽」が前面に出ないことを嘆いたが、それが音楽性を求めないタイプのファンや視聴者への配慮だったり、「二人組」の事務所カラーをおさえてバラエティ化を推し進めることが視聴率(=スポンサー)を獲得する手段だったのかもしれないと割り切れば、納得できないわけでもない。所属事務所の強い後押しが感じられない今、数字がなければ番組は存続しない。数字がそこそこ取れても、投資したくなるほどの魅力がなければ存続しない。そもそも彼らの扱いは難しい(もちろん彼ら個人の責任ではない)。ファンは音楽だろうがなんだろうが彼らのすべてがみたい。ファン以外は、アイドル的要素をみたくはない。視聴者ターゲットと内容が定まらず宙ぶらりんで悪戦苦闘するなか、金と手間がかかり厄介者とされる「生演奏」が最後まで残っていたことは、音楽番組としての矜持が保たれていたことの証拠といえる。表面上はバラエティにしか見えなくても、番組P氏はやはり音楽番組であることにこだわっていた。

インタビューを読んでいて、氏のユニークな視点を見つけた。

そういう感じがとても大事だと思うんですよ。深田きょう子と屋敷ごう太が並んでる感じが。

 音を楽しむ場に、新人もベテランも、俳優もミュージシャンも問わないということだ。人物のみならず、さまざまな音楽シーンもミックスすることで、それぞれのファンが知らなかった音楽への出会いを作る。氏のこの発想があったからこそ、アイドルである二人がギターを持ち、曲を作り、ステージに立つことが可能となった。

最終回は9月28日。30分丸ごとライブ。どんなメンバーで挑んでくるのだろうか。ここ数年鳴りを潜めていた「あえて間違ったことをやる」番組の姿をまざまざと見せつけてほしい。たとえテレビの向こうでも、その光景を目にした人たちの音楽の世界はきっと広がっていく。