はみだしつば

堂本剛さんに関する一つの見解

『プラトニック』と夢と現実(1)

『プラトニック』第7話を見た。

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※ドラマの見方は人それぞれです。この『プラトニック』は、視聴者の経験則や人生観、願望、こだわり等が大きく反映され、同じストーリーを追っていても全く別の解釈を生み出すタイプのドラマのように感じます。さまざまな考え方に触れることで、より豊かな感性で最終回を観賞できる、と確信できるかたのみお進みください。

※この文章はあくまで個人の物語の解釈であり、正解探しをするためのものではありません。普段の自分の世の中の見方が全面的に現れています。ドラマ本編とは別物、と捉えてくださるとこちらも気が楽です。

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前回、死の恐怖に目を瞑り、沙良と沙莉の救世主として残り少ない人生を全うしようと決心した青年であったが、奇跡的に脳腫瘍が小さくなったため助かる可能性が出てきたと倉田医師に告げられた。普通に考えるのであれば、手術をして社会復帰をするのが当面の目標であり、それが世の中の常だ。合理的で現実的な「私」青年は、その事実を沙良の元夫・佐伯と弟・和久に告げる。しかし、沙良との夢のような日々に浸っていたい「俺」青年は、沙良には告げることなく、相変わらずの蜜月の時を過ごしている。

以前のかかりつけの主治医の再診察を受け、そこでも生きることの可能性を提示された青年は、ためらいがちに、双子の弟に電話をする。

俺、オペが受けられることになったんだ。(略)だから、助かるかもしれないんだって。(略)俺だって信じられないよ…。

理性的に考えるのであれば、生きる可能性が出てきたことはもちろん嬉しい。しかし、それは沙莉の救世主としての役を降りることであり、弟のいる現実(=必要とされない俺、ただ生きているだけの俺)の世界に引き戻されることを暗示していた(のじま的二元論)。「ただの人」となった自分を沙良は愛してくれるのだろうか。加えて沙良が背負う大きな現実である沙莉も、いつどうなるかわからない体だ。沙良を愛するがゆえの、身が引き裂かれるような大きな不安と葛藤が青年を襲う。

日が暮れる頃、目を閉じて美しい日々を振り返りながら青年は心を決める。このまま沙良と夢のような世界を紡いでいこう、と。青年は手術は受けずに救世主の役を全うするという「現実」を選んだ。この時点では何も知らされていない沙良は、まだ青年との夢を見続けている。

一方、病院で、佐伯から青年の腫瘍の件を聞かされた沙良は動揺していた。「私は何もきいていません!!」と倉田医師に詰め寄る。沙良は、恋人同士である以上は隠しごとをせずに何でも共有し合うことを当然と考えていた(第3話参照。元彼女に理由を伏せて別れを告げた件で、青年から「(理由を)話してほしいですか?」と聞かれ「もちろんよ。誰でもそうだと思うわ、恋人なら」と発言)。青年と重大な事実を共有できていなかったことに、自分達が築きあげてきた「二人だけの世界」への信頼が揺らぐ。また、これからの彼の、一般的には健全とされる現実(オペをして社会復帰すること、見合った年齢の女性と結婚して子供を作ること)を考えると「世界で一人取り残される圧倒的な怖さ」にも襲われる。さらに心の奥で気がかりなことが一つ。心臓移植という大義名分がなくなっても、彼は私のそばにいてくれるのだろうか。私が「かわいそう」だから、彼はこれまで一緒にいてくれたのだろうか。この点に、沙良は「女としての惨めさ」を感じずにはいられない。

ディナーの場に青年は来ないかもしれない。もしかしたら一生、会えないのかもしれない。不安に包まれる中、目を開けたその先には、青年が微笑んで座っていた。

私……、私……、とても……、喉かわいちゃった

沙良は咄嗟に、自分が感じていた不安を心の奥底に閉じ込めた。口に出してしまえば、この夢は一瞬で醒めてしまうほど淡く儚いものだと気づいたからだ。二人は何事もなかったかのように、グラスを傾け乾杯をする。

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前回は青年が、今回は沙良が、「二人だけの世界」がデリケートで脆いものであることに気がついた。二人は相手を愛するがゆえ、それぞれの思いを心の奥底に閉じ込め、互いに夢物語の維持に努めることに合意した。それが刹那であると、どこかでわかっていたとしても。この、二人が知らず知らずのうちに結んでいた暗黙の契約が、第7話のタイトル「約束」なのかもしれない(発想に飛躍があることは承知しています)。

「約束」の意味はどうあれ(思考放棄)、もともと二人が求め合う気持ちには、「愛されてこなかった」という幼少期からの認識(誤認?)に基づく愛の飢えと渇望が根底に流れている(特に青年)。容姿や能力、努力、損得によらず、ただ存在するだけで愛されたい。愛したい。二人はどうすれば、至上の愛を実感することができるのだろうか。その愛に触れたとき、死んでしまうのは肉体と精神を含めた青年の全体なのか、肉体だけなのか、それとも青年の精神の一部なのか。予測は不可能。二人がともに救われるであろう最終回を待つ。